伊藤貫氏は、トランプのアメリカを19世紀のアメリカの姿と捉えています。その背景には、以下のような特徴があったと説明しています。
人口構成: 当時のアメリカは白人が9割を占め、少数民族が1割程度であった。
外交政策: 初代大統領ジョージ・ワシントンの時代、1793年にアメリカはフランスとの同盟を破棄し、それ以降、他国との同盟関係を持たないという孤立主義の国家であった。
経済政策: 高い関税を課すことで他国からの輸出を抑制し、自国の産業を保護していた。
伊藤氏は、トランプがこのような19世紀的なアメリカを好んでいると考えています。そのため、トランプは移民を制限し、他国との同盟関係に積極的ではなく、関税を引き上げて他国からの輸入を減らそうとしていると指摘しています。これは、第二次世界大戦後のアメリカとは全く異なる方向性です。
このようなトランプの考え方を支持するアメリカ国民が少なくない背景として、伊藤氏は過去30〜40年のアメリカの経済状況の変化を挙げています。具体的には、
多くのアメリカ国民(少なくとも6割、エコノミストによっては7割)の実質生活水準が低下している。
一方で、トップ1%や上位1〜2割の富裕層は非常に豊かになっている。
1947年から1976年までは、企業の利益の56%が従業員の賃上げに使われていましたが、1980年以降現在まではわずか3%に過ぎません。
1947年から1976年までは、労働生産性の向上率と平均的なアメリカ人の実質所得の向上率が一致していましたが、1980年以降は労働生産性が向上しているにもかかわらず、実質所得は停滞しています。
伊藤氏は、このような状況が、株主資本主義によって企業の収益が株主に偏り、労働者に還元されないために起こっていると分析しています。長年このような状況が続いたことで、多くの国民が不満を抱えており、そうした中でトランプが登場し、既存のシステムを壊そうとしていると捉えられています。
また、伊藤氏は、トランプ自身が富裕層の出身でありながら、子供の頃から下町の庶民と交流し、彼らと遊んだり喧嘩したりすることを好んでいたというエピソードを紹介しています。この経験が、トランプが庶民の心を掴むことに長けている理由の一つではないかと示唆しています。
さらに、伊藤氏は、クリントン政権以降30年間続いてきたグローバリズムと新自由主義という2つのイデオロギーが賞味期限切れを迎えていると指摘し、世界は新重商主義の時代に向かっていると分析しています。新重商主義とは、貿易や経済取引を自国の国益を最優先に行うという考え方であり、トランプの政策はこの考え方と合致すると述べています。
近年アメリカ国民の生活水準はどう変化したか。
近年、アメリカ国民の生活水準は以下のように変化したと伊藤貫氏は指摘しています:
多くのアメリカ国民の実質生活水準が低下している。伊藤氏によれば、少なく見ても6割、エコノミストによっては7割のアメリカ国民の実質生活水準が過去30〜40年間で下がっています。
一方で、上位の富裕層(トップ1%や上位1〜2割)は非常に豊かになっている。
1947年から1976年までの間、アメリカの企業が利益を得ると、その56%は従業員の賃上げに使われていましたが、**1980年以降現在まででは、企業の収益が増加しても従業員の賃上げに使われるのはわずか3%**です。これは、ほとんど賃上げが行われていない状況と言えます。
1947年から1976年までは、アメリカ人の平均的な労働生産性の向上率と実質所得の向上率が一致していました。しかし、1980年以降は労働者の労働生産性は順調に上がっているにもかかわらず、平均的なアメリカ人の実質所得は停滞しています。
伊藤氏は、このような状況の背景には、株主資本主義があると分析しています。企業がどれほど収益を上げても、その収益のほとんどが株主のところへ行き、労働者の懐にはほとんど入らないという状況が30〜40年続いた結果、多くの国民が自分たちは搾取されていると感じ、不満を抱いていると述べています。
新重商主義とはどのような考え方か。
伊藤貫氏によれば、新重商主義(ネオ・マーカンティリズム)とは、現代において世界が向かっている方向性を示す考え方です。これは、従来の自由貿易主義とは対照的な概念として説明されています。
自由貿易主義においては、個々の商人や会社が世界市場に進出し、自由に商売を行い利益を得ることで、世界全体が豊かになると考えられています。
一方、重商主義、そして現代の新重商主義では、貿易や経済的な取引はすべて、自国の国益を最優先させるために行われると考えます。そのため、あらゆる経済行為は、それが経済的および軍事的に自国にとってプラスになるかマイナスになるかを判断基準として決定されます。
伊藤氏は、トランプ大統領の政策はこの新重商主義の考え方そのものであると指摘しています。
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