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巨大IT企業はなぜ邪悪になるのか?

  • 執筆者の写真: 渡邉 定好
    渡邉 定好
  • 5 日前
  • 読了時間: 8分

巨大IT企業が自由な理念から始まり、国家のような中央集権的組織へと変貌していく背景には、いくつかの要因が考えられます。

まず、初期のインターネットプラットフォームは、自由な市場を実現するための実験として始まることが多いようです。例えば、eBay(創業時の名称はAuctionWeb)は、創業者が効率的な市場がインターネットによって実現できるのではないかという知的な探求心から始めたものであり、当初は利益を目的としていませんでした。Uberの創業者であるトラビス・カラニックも、自由市場を信奉するリバタリアンであり、政府の介入を排除し、市場に任せるという理念でUberを創設しました。

しかし、これらのプラットフォームが規模を拡大するにつれて、様々な問題に直面します。eBayでは、取引の活発化とともに詐欺が横行するようになり、Uberでも、需要と供給のアンバランスが生じるなど、当初の自由な理念だけでは対応できない状況が生まれます。

このような問題に対処するため、プラットフォームは徐々に中央集権的な管理体制へと移行していきます。eBayは、詐欺を防ぐために評価システムを導入しましたが、評価のインフレーションや売り手と買い手の癒着、さらには買い手による脅迫といった新たな問題が生じました。これらの問題に対処するため、eBayは買い手の評価を廃止したり、脅迫を行うユーザーのアカウントを停止(「シベリア送り」と呼ばれることもあったようです)したりするなど、管理者による介入を強化せざるを得なくなります。また、粗悪品や危険な商品(例:危険な痩せ薬)の流通を防ぐために、出品者に対する事前審査やルールを設け、違反商品の取り消しを行うなど、規制を強化するようになります。これは、創業者が当初嫌っていた国家による介入そのものと言えます。

この現象は、インターネットの発展が、過去3000年にわたる経済の歴史を30年で再現しているという視点からも理解できます。小さな村社会では顔見知りの関係性から詐欺は起こりにくいですが、都市化が進むにつれて匿名性が高まり詐欺が発生しやすくなるという問題は、インターネットの登場によって再び現れたと言えます。この都市の問題に対処するために、歴史的に様々な制度(中世の宿屋の主人のような情報集約者、役場による取引記録など)が生まれてきましたが、eBayの評価システムもその一つと言えるでしょう。

さらに、現代の巨大ITプラットフォームが、かつての計画経済であるソビエト連邦と異なるのは、テクノロジー、特に情報処理能力の差であるという興味深い視点も提示されています。自由市場が効率的なのは、需要と供給に関する膨大な情報を処理する能力に優れているからですが、中央計画経済は中央機関だけでこの処理を行うため、その負担が大きすぎました。しかし、現代の巨大ITプラットフォームは、高度なテクノロジーによって瞬時に大量の情報を処理することが可能になり、中央集権的な管理においても効率性を維持できる可能性があります。これは、かつてのリバタリアン的な理想とは異なる、**テクノロジーによる高度な中央計画経済(ソ連2.0)**とも言える状況を示唆していると言えるでしょう。

このように、巨大IT企業は、自由な理念のもとで設立されることが多いものの、規模拡大に伴う問題への対処、歴史的な経済発展の反復、そして高度な情報処理能力を持つテクノロジーの存在といった要因によって、国家のような中央集権的な組織へと変貌していくと考えられます。


ウーバーが自由市場の理念と逆行した理由は?


ウーバーが自由市場の理念と逆行した理由は、主に市場の成熟に伴う需要と供給の不均衡、そして上場企業としての利益追求の圧力が挙げられます。

ウーバーの創業者のトラビス・カラニックは、自由市場を信奉するリバタリアンであり、政府による介入を排除し、市場に任せるという理念でウーバーを設立しました。しかし、ウーバーの市場が成熟していくにつれて、需要と供給のバランスが崩れるようになりました。

具体的には、特定の地域では運転手が過剰に集中し、一方で別の地域では運転手が不足するという状況が発生しました。このような状況に対処するため、ウーバーは以下のような中央集権的な管理措置を導入せざるを得なくなりました。

  • 行き先を伏せて仕事を受けさせる仕様への変更: これにより、運転手を需要の高い地域へ強制的に移動させることが可能になりました。

  • 新規運転手の登録停止: 特定の地域で運転手が過剰になるのを防ぐために、新規登録を拒否するようになりました。

  • 運転手が価格を設定する権利の剥奪: ウーバー側が価格をコントロールするようになりました。

  • 運転手が好きなエリアで待機する権利の剥奪: ウーバーの指示に従って運転する必要が生じました。

さらに、ウーバーは上場企業であるため、株主からより多くの利益を求められるようになり、結果として、かつて腐敗した官僚体制の象徴として批判していたタクシー業界と同様に、あるいはそれ以上に利益を追求するようになったことも、自由市場の理念とは逆行する要因となりました。このように、ウーバーは、当初嫌っていた既得権益そのものに成り代わっていると指摘されています。

この変化は、創業者が理想とした自由市場とは真逆の、**まるでソビエト連邦のような中央計画経済(ソ連2.0)**とも形容されています。これは、プラットフォームが規模を拡大するにつれて、自由な理念だけでは対応できない問題に直面し、中央集権的な管理体制へと移行していく、多くの巨大IT企業に共通する運命であるとこの本の著者は論じています。



プラットフォームが成長することと国家の成立が相似している意味は


  • 当初の理念からの変遷: eBayやUberといったプラットフォームは、創業当初は自由市場や規制からの解放といった理念を掲げていましたが、規模が拡大するにつれて、その理念とは裏腹に中央集権的な管理へと移行していくという点で、国家の成立過程と類似しています。Uberの創業者トラビス・カラニックは自由市場を信奉していましたが、最終的にはドライバーの数を調整したり、新規登録を停止したりするようになったと述べられています。これは、自由な取引を目指したeBayが、詐欺対策のために評価システムを導入し、さらに脅迫を行うユーザーを排除するためにアカウントを停止するようになった過程とも重なります。

  • 悪質なユーザーへの対処: プラットフォームが成長するにつれて、詐欺師のような悪質なユーザーが出現し、これに対処する必要が生じます。eBayが評価システムを導入したのは、ユーザーによる自律的な管理を通じて詐欺師を淘汰することを期待したからですが、これは国家が法や警察といったシステムを構築して犯罪に対処するのと同様の必要性に基づいています。しかし、評価システムだけでは問題を完全に解決できず、eBayは最終的に中央集権的な管理へと移行せざるを得なくなりました。

  • 中央集権的な管理への移行: 規模が大きくなったプラットフォームは、効率的な運営や問題解決のために、次第に中央集権的な管理体制を強化していきます。Uberがドライバーの行き先を伏せて仕事を受けさせるようにしたり、価格設定の権利を奪ったりしたのは、まさに中央による管理の強化と言えます。eBayも、問題のあるユーザーをBANしたり、特定の商品の販売に規制を設けたりするようになり、当初の自由な市場という理念から離れていきました。

  • 歴史の反復: インターネットにおけるプラットフォームの発展は、過去3000年にわたる経済の発展を30年で再現しているとも言えます。都市が初めて生まれた時と同様の問題(詐欺の増加など)に直面し、それに対処するために様々な制度(評価システムなど)が考案される過程は、人類の歴史における国家や制度の成立と相似しています。

  • 自由の喪失: 小さな村社会のような顔見知りの関係性に基づく信頼が、都市の出現によって失われたように、初期の自由な取引が行われていたプラットフォームも、規模が大きくなるにつれて管理が強化され、ユーザーの自由が制限されていくという点で類似しています。Uberがドライバーの好きなエリアで待機する権利を剥奪した例などが挙げられます。

  • (補足)テクノロジーの役割: ソビエト連邦と現代の巨大プラットフォーム(Uberなど)の比較を通じて、中央集権的な管理の成否にはテクノロジー(情報処理能力)が重要な役割を果たすという視点も示唆されています。ソビエト連邦が崩壊した理由の一つにテクノロジーの不足があったのに対し、現代のプラットフォームは高度な情報処理能力によって中央集権的な管理を効率的に行えるという点で異なるとされています。これは、プラットフォームが国家のように振る舞うことをより容易にしている要因とも考えられます。

このように、プラットフォームが成長し、様々な問題に対処していく過程で、自由な理念の変質、悪質な行為への対策、中央集権的な管理体制の確立といった点で、国家の成立と多くの共通点が見られるため、両者は相似していると言えるのです。

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